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福岡うどんの定番・ウエストの楽しみ方完全ガイド|人気メニューと歴史
「とりあえず、ウエストのうどんは食うとかんと。基本やけん。」
福岡の人にそう言われて、戸惑っていないだろうか。
旅行の下調べで「屋台」や「ラーメン」「もつ鍋」ばかり調べていたのに、まさかの「うどん」。まったくのノーマークだったのでは……?
そもそも、うどん屋なのにカタカナの店名。この時点で「大丈夫か?」という気持ちになるのではないだろうか。うん、あなたは正しい。
そしてあの赤い看板。どことなくファミレスっぽい外観。同じ屋号で焼肉も中華もあるらしい。どういう店なんだこれは……。
「夜中でも開いとるけん」
「出汁を飲むと落ち着くっちゃん」
そう。ウエストは、福岡の“空気”みたいな存在だ。
この記事では、その“基本やけん”と言われる暮らしの味である「ウエスト」を、県外の方の目線に寄り添いながら、紹介していこう。うどんの味、店の雰囲気、人気メニュー。
そして、なぜ福岡の人にとって「ウエスト=日常」なのか。
目次
ウエストのうどんが福岡で愛される3つの理由

福岡で「ウエスト」といえば、うどん屋の名前であり、生活のリズムでもある。行列ができるわけでも、特別なごちそうでもない。それでも、どんな時間帯でも人が入っている。その理由は、3つの要素に集約される。
第二の自宅のような手軽さ
ウエストの手軽さは、ただ“早く食べられる”という意味じゃない。「いつでも、近くて、美味しい」。それが、福岡の人にとってのウエストの価値だ。
福岡で一番多いうどん店。それがウエストだ。24時間営業の店もあり、街を歩けば、だいたいどこかに赤い看板がある。お腹がすいて、考えるのも面倒なとき。ウエストが視界に入ると、それで解決する。安くて、ちゃんとおいしい。しかも店内は清潔で、気取らない。
ひとりでも、家族でも、同僚とでも行ける。学生も、年配の方も、サラリーマンも同じカウンターでうどんをすすっている。自宅にいるときと同じ表情で。ウエストは、誰でも、同じように満足できる店なのだ。
ホッとする美味しさ
ウエストの美味しさは、派手な味ではない。でも、ふと食べたくなる。それは、日常の隣りにあるホッとする味だからだ。
麺はモチッとしていて、ほどよく弾力がある。ツルツルと口に入るのに、噛めばもちもち。やわらかさの中に芯がある。単に柔らかいというわけでは、まったくない。
出汁は雑味がなく、上品でいて、キリッとしている。飲み干してもくどくないのに、旨味がちゃんと残る。やさしい味だけれど、ぼやけていない。
そして、注文が入ってから揚げる天ぷら。丸天はあつあつ、かき揚げはサクッと香ばしい。揚げたての香りが、湯気といっしょにテーブルに届く瞬間がうれしい。
ネギと天かすをお好みで入れられるのも、ウエストの楽しみのひとつ。ちょっと足すだけで味が変わり、自分の一杯になる。
派手さはない。けれど、毎日でも食べられる。飽きない味こそ、福岡のウエストらしさなのだ。
安心感と、日常の幸せ
ウエストの安心感は、日常の幸せに近い。
看板を見た瞬間、「もう大丈夫だ」と思える。腹が減って、疲れて、考えたくない夜でも、赤い看板が視界に入ると、ふっと心がゆるむ。
どの店に入っても、味は同じ。出汁の香りも、店員さんの声も、いつも変わらない。学生も家族連れもサラリーマンも、同じ湯気の下でうどんをすすっている。その光景を見るだけで、安心する。ぼくらは、ウエストを食べて、今日も生きる。
ウエストはもう、ひとつの店ではなく、街の一部だ。誰かのものではなく、みんなのもの。変わらない味と雰囲気が、福岡の暮らしの背景を支えている。
特別ではないけれど、いつ行っても心がほどける。それが、ウエストのくれる安心感と、日常の幸せだ。
福岡で愛される「ウエストのうどん」3つのメニュー
ウエストで、特に人気を集めているうどんのメニューを紹介しよう。
肉うどん

甘辛い肉と出汁が混ざった瞬間が、ウエストの肉うどんの真骨頂。すっきりとした出汁に、肉の旨味が溶けて、ひと口ごとに深みを増していく。
食べ終えるころには、丼の底に残ったつゆまで飲み干したくなる。シンプルだけど、一番“ウエストらしい調和”を感じる一杯。
かき揚げうどん

ウエストのかき揚げは、注文後に揚げる。サクサクの衣が出汁を吸うと、油のコクと香ばしさが広がり、出汁の旨味がぐっと前に出てくる。
揚げ油が旨味の媒介になるという、ウエストの上品な出汁だからこそ成立する贅沢な一杯。
ごぼう天うどん

ごぼう天の香ばしさと出汁の優しさ。この組み合わせが福岡のうどん文化の象徴だ。ウエストでは、これも揚げたて。
歯ざわりの軽いごぼうをかじった瞬間、出汁の湯気と一緒に香りが立ちのぼる。派手じゃないけど、福岡県民のDNAに染みている味。
「ウエストのうどん」もっと楽しむ3つの特徴的なメニュー
ウエストは、うどんだけではない。他にもチェックすべき人気メニューがあるので、紹介しよう。
もつ鍋

夜のウエストで人気を集めているのが、この「もつ鍋」。居酒屋メニューがある店舗のみ、提供されている。
1人前390円(注文は2人前から)という価格ながら、うどんの出汁と焼肉ウエストの牛もつを組み合わせた本格派だ。もつの脂が溶けたスープは、驚くほど上品で、締めにうどんを入れると二度美味しい。
昼の顔が“食堂”なら、夜の顔は“居酒屋”。この振り幅の広さも、ウエストの懐の深さを物語っている。
丸天うどん

ウエストの丸天は、注文が入ってから揚げる。アツアツの状態で、出汁の上に乗るとジューッと音を立てて香ばしさが広がる。
「カットしますか?」と聞かれるのは、熱すぎてやけどするから。カットされた断面が茶色く揚がっているのが、ウエスト流の証。
練り物の甘みと出汁の塩気がちょうどよく、福岡のうどん文化の“やさしい底力”を感じる一杯だ。
高菜巻おにぎり

ウエストで食べるうどんには、このおにぎりがよく似合う。
高菜の葉で包まれたご飯は、香りが立ってほどよい塩気。うどんのやさしい出汁を引き立てる脇役として完璧だ。
派手さはないのに、ちゃんと記憶に残る味。いつの間にか頼むのが当たり前になっている。
ウエストのうどんの味のこだわりとは?

ウエストのうどんの、味のこだわりはどのようなところにあるのでしょうか。ここを知ると、よりいっそうウエストのうどんを美味しく食べられます。
麺 – ツルツル・モチモチ、安定の食感

特注の冷凍麺を使用
過去に手打ちだった時代もあったが、時間や店舗によって、味に大きなブレがあった。手打ちのように“打ちたて”の美味しさは再現しつつ、店舗ごとのブレをなくすために冷凍麺を採用している。時間帯や店舗によるムラをなくし、24時間いつでも同じ品質を提供できる。
モチモチとした弾力
「福岡のうどん=やわらかい」と思われがちだが、ウエストの麺はやわらかさの中に芯のあるモチモチ感がある。福岡うどんの中では比較的コシがあり、噛んだときにぷるんと弾む。
ツルツルの表面
麺の表面がなめらかで、のどごしが良い。「もちもち×つるつる」という食感の両立が、ウエスト特有のバランス。
独自配合の小麦粉と水分量
水分量を高く保つことで、冷凍・解凍後も弾力を失わない。麺を急速冷凍することで、ゆで上げ後に“ゆるまない”食感を実現している。
出汁 – 雑味のない、澄んだ旨味

昆布・いりこ・あじこをベースにした自然だし
人工的な調味料に頼らず、素材の旨味で味を整える。“雑味のなさ”と“後味のキレ”を最も重視している。
ティーパック式の自社製出汁パック
創業当初は各店舗でいりこのハラワタを手で取り除いていたが、作業の安定化と品質維持のため、粉砕した素材を袋に詰める独自方式へ。どの店でも同じ味を出せるようになった。
味の方向性は“上品でキリッと”
丸くやさしいだけでなく、旨味がシャープ。飲み干しても重くならず、すっきりと口が整う。
揚げ物と混ざってもおいしい出汁
ごぼう天やかき揚げの油が溶け込むことで、旨味がさらに立体的になる。軽やかな出汁だからこそ、油を受け止めてもくどくならない。
ウエストの歴史 〜うどんが福岡の定番になるまで〜
ウエストは昔から福岡のうどんの定番になったわけではない。歴史を紐解いてみていこう。
創業の原点はドライブイン
ウエストの始まりは、1970年代初頭のドライブインレストラン。

創業者・境豊作がアメリカ視察で見た“ロードサイド型の食文化”に着想を得て、国道沿いに洋食やうどん、焼肉、中華を一度に楽しめる大型店舗をつくったのが原点だ。

広い駐車場、明るいガラス張りの建物。「味の街」と呼ばれるその業態は、当時としては画期的だった。その中にあった“うどんコーナー”が、のちのウエストうどんの出発点である。
焼肉全盛期から、うどん単独店へ

平成に入ると、焼肉業態が急成長。「焼肉ウエスト」は九州一円に広がり、ウエストは焼肉の会社として知られるようになった。
しかし、1990年代後半、O-157やBSEといった食の安全問題が立て続けに起きる。「焼肉だけに頼るのはリスクがある」と考えた経営陣が、“第二の柱”としてうどん事業を強化する決断を下す。
1999年、「うどん100店計画」が始動

1999年、社内に“うどん100店計画”が掲げられた。出汁のレシピを統一し、特注の冷凍麺を導入。品質とスピード、価格をすべて安定させることで、「どの時間、どの店舗でも同じ味」を実現した。
この改革によって、ウエストのうどんは一気に浸透。6年で100店舗を達成し、福岡の人にとって「うどん=ウエスト」という感覚が根づいた。
「断然おいしくなりました」キャンペーン
2000年代初頭、テレビCMで流れたキャッチコピーは「断然おいしくなりました」。冷凍麺と自社出汁パックを使った新体制を、明るく伝えた。
「ラーメンの街」と言われる福岡で、“うどん文化”が再評価されるきっかけをつくったのは、この頃のウエストだった。
そして今、“街の一部”へ
創業から半世紀。
うどんウエストは今、福岡だけでなく九州全域へ。店舗の明るさも、出汁の味も、創業時から変わらないまま。どの世代にも馴染む、街のインフラのような存在になった。
もはや「ウエストに行く」は、食事ではなく日常の一動作。その歴史は、福岡の暮らしそのものの歴史でもある。
ウエストは「地縁店」。福岡に根づくということ
ウエストには「地縁店(ちえんてん)」という考え方がある。土地に育ててもらい、その土地の暮らしに溶け込む店であろうとする姿勢のことだ。たとえば、近くに小さなうどん屋があれば、出店を見送ることもあったそうだ。
「地元のために、そっと役に立つ店でありたい」という思いは、今も「ウエスト」の基盤として、脈々と受け継がれている。
だからこそ、ウエストは、ただの飲食店にとどまらず、福岡の街の生活を支えるインフラのような存在になったのだ。
深夜に光る赤い看板。出汁の香りがする店内のあたたかさ。老若男女が同じようにうどんをすする光景。
そんな当たり前のような瞬間に、ウエストは静かに寄り添っている。
派手ではない。でも、なくなったら困る。それが「地縁店」としてのウエストの姿だ。
福岡の人が、県外のあなたにこう言う理由も、もうきっと分かるはずだ。
「とりあえず、ウエストは食うとかんと。基本やけん。」
写真提供・取材協力:ウエスト
